2010年04月02日
MagSLの縮小に思う
先月末に発表されたMagSLの事業縮小について考えてみたいと思います。既にNeko Linkさんのコメントが発表されていますので、その見解を拝見して戴くのが一番いいのですが、ここでは自分なりの考えを書いてみたいと思います。MahSLのインサイダーではないので、勘違いや誤りは含まれているかもしれませんが、07年以来MagSLを見続けて来た一人の者の考えです。
まずエコノミクス(経済性)について。リンデンラボのビジネスモデルは土地を売ってその管理料を収入とする、RLから見ればサーバーのレンタルをしているというものです。だから出来るだけサーバーを沢山レンタルしたいし、MagSLのような中間の業者への販売は短期間に管理料収入を増やすという意味では効果的ですが、利益率を上げるという意味では自ら直接ユーザーに販売する方が儲かるのです。ここに両者の基本的な利害相反の構造があります。
MagSLの立場としては、上記のようなモデルのなかで住民に不動産を貸し出しているだけではGridの利用者数の拡大期はともかく、普通では十分な利益を上げることはできません。というのは自らが借りている土地の稼働率をある一定以上に保てないと、空いた区画のコストを自分で負担しなければならないからです。更にスタッフを専属で張りつけると結構なコストになります。
ホテル、旅客機などのスペースを販売している業態では、通常利用率というか稼働率は45から55%でペイするようになっています。逆にこの数値が達成できるように、この場合土地の供給者であるリンデンラボに管理料の引き下げを要求する必要があるわけです。しかし、おそらくリンデンはとても欲張りなので、MagSLは土地を大量購入することによって調達コストを引き下げる方向に行ったのでしょう。でもこの数量ディスカウントは十分なものではなかったと推察します。
大量購入によるディスカウント、これは一見合理的ですが、土地を持てば持つほどIn-worldやRLの経済の変動に対するビジネスモデルの脆弱性は高まっていきます。これが基本であり、現状のMagSLの置かれた立場です。
もちろんそんなことは分かっているので、MagSLとしては経営の主要な柱をこの住民に対する土地の貸し出しビジネスに置かずに、SLに参入する企業に対する「支援サービス」に置いていました。現ナマがドカドカ入ってくるわけですね。これは企業が自分たちで何をするのかという明確な方針や意図を持たないままに、浮き足立った状態でお金を使っているあいだは随分儲かるビジネスだったはずです。そのときはこの選択は有効だった。
しかし、これは本質的にバブルであって、バブルは弾けるのです。なぜバブルなのかというと、「土地本位制」であるSLでは土地を手に入れた人は、それを使って何かの付加価値を生み出して、収益を上げないといけないのです。それによって通常の健全な経済活動が回転していくことになります。しかし、SLの土地は本当の土地ではないので、タネを撒いたら作物が出来るわけでも、穴を掘ったら石油や金が出てくるわけでもありません。だから土地の利用に伴いもっと他の「成果」、誰かがそれに価値を見出してお金を払ってくれる何かを生み出さないといけなかったのです。
更に言うと、そのような「成果」がSLだけではなくてRLに提供され消費されるものであることが望ましかったのですが、そのようなコンテンツやモデルを出すことができた人や企業はほとんどいなかったというのが真実だと思います。つまりSLとRLを結びつけるモデルとして効果的なものは今のところまだ生み出されてはいないと思うのです。
これはRLで出来ないことがSLで出来たり、RLよりも安いコストでSLのなかで仕事が出来たりするということになります。そこで教育や研修に着目されたりしたのですが、RLの移動コスト、時間をを削減するといった面でのメリットしかなく、トータルではRLの既存の教育研修システムを凌駕することにはなっていないのではと考えています?通信教育というのは古くからあるサービスなので、色んなメディアをうまく使っており、SLを使えたとしてもSLの専売特許ということにはならないでしょう。
何故企業や個人の様々な試みがうまくいかなかったのか?もちろんそれには理由があります。ある人はSLが要求する物理的なスペックの高さ、PCやネットワークの品位の高さが普及を阻んでいることを指摘します。現代のコミュニケーションのキーであるモバイル性が乏しいのも難点ですね。
また、別の人はSLがユーザーに多くのコミットメントを求めることをあげます。TVのように見ているのか聞いていないのか分からないような状態で、バックグラウンドで流せるメディアではなくて、SLはユーザーの視線や、目的意識や、両方の手を拘束するのです。つまり、SLはかなりその気でやる必要のあるゲーム?で、何となく惰性や脊髄反射でやってしまえる他のものとは違い、ユーザーの負担になる面が大きいということですね。ちょっと気の利いたものを作ろうとすると、多くの時間を取られてしまいます。
しかし、それよりもなによりも、SLの一番の問題点はそれがRLのSimulationであるという点です。つまり、RLにないものを作るのではなくて、通常程度のイマジネーションしか持ち合わせないユーザーはひたすらRLのイミテーションをSLの中に作っていくことを目指してしまう。「セカンドのライフ」なんだからそれで何が悪いのかというようなものですが、それでは結局RLを超えた価値を生み出したことにはならないのです。仮想空間の中に「東武ワールドスクエア」を作ることは、作っている間は面白くても、出来た瞬間から詰まらなくなるのです。
他にも色々な指摘が出来ると思います。しかし、以上のような欠点があっても、SLは仮想空間のプラットフォームとしての価値を減じることはありません。プラットフォームが面白くないというのは、それは自分が面白くない存在だと言っているに過ぎないのです。ただ、残念なことにこのプラットフォームを自在に使いこなすことができるのは、類い稀な直観力やイマジネーションや創造力の持ち主であり、根気や集中力を備えている必要があるのです。そんな人は登録者のうちの1%くらいのものでしょう。
MagSLはリンデンラボのプラットフォームのコンセプトをちゃんと理解して、変なコンテンツを供給するよりも、住民の発意や工夫に任せるというスタンスを維持していました。マーケティングの一環としていろんなイベントは企画し、Sim群に多様性を与えようと努力し、スタッフを常駐させるなど、全ての点で初心者のSL生活をスマートにサポートしてくれていました。私もそこを評価して07年の夏以来ずっとMagSLに本拠をおいて活動してきました。
リンデンラボは初期の開発者層から資本家層に経営権が移ったことによって、MagSLのような土地の「小分け機能」を担う商社を育て、共存していくという視点を失ったようです。勝手に土地価格を下げたり、新商品を乱発されたりしては、これら中間の事業者はたまったものではありません。
日系の企業が我に返って撤退をして行った後は、MagSLとしても退勢を挽回することはできず、損が積み上がらないうちに今回の結論を出したということで、妥当な経営判断だと思います。
個人としてはNeko Linkさんやスタッフの方々のこの新しい世界へのチャレンジに敬意を表し、私たち素人ユーザーへの支援や配慮には深く感謝する次第です。とても気持ちのよい空間とサービスを提供して戴き、自分の能力の伸長を助けてもらったと思っています。
Posted by Sophiee Winkler at 12:51│Comments(0)
│ビジネス
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