2010年08月20日
SLの未来
長々と引用してきたMassivelyのSLの歴史に関する特集記事でしたが、Tateru NinoはSLの未来についてあまり多くを語ることはありませんでした。ちょっとがっかりですね。
さて、私の考えを書いておきましょう。リンデンラボの経営の拙劣さ、必要もないスタッフを多く雇うとか、経済実態を良く見せる操作をするとか、ユーザーや事業者の犠牲の上に自らの利益を積み重ねていこうという姿勢は大いに非難されるべきです。しかし本質はそんなところにはないのではないでしょうか?
つまりリンデンラボの手詰まり状態というのは、リンデンラボの経営の問題がメインなのでなくて、SLが世の中に新しい価値を提供できていないということが原因であると思うのです。
世の中に存続しているものは価値が全くないか、あるかのどちらかです。砂漠は油田でもあるのでなければ放置されたままです。価値を生み出さないものはコストを掛けて手を加えられるということはありません。価値のあるものはわざわざ人が買いにやってきます。
SLから人々が得られる価値というのは大まかにいうと(1)娯楽や慰安、(2)RLのシミュレーション、(3)経済的利得、(4)他者とのコミュニケーションや出会いなどでしょう。そしてそれらがRLにないものであったり、RLと比べものにならないくらい低コストで得られたりするのであれば、人々はSLの価値を認め利用者は増えていくはずです。逆に他の仮想世界のサービスやRLがSLを上回るものを与えてくれるのであれば、SLは低い価値しか持ち得ないことになります。
残念ながら(1)の一部を除いてはSLはRLを陵駕するには至っていません。同じ時間を使うのであればRLで働いた方が確実にお金になるし、本当にビジネスに使うシミュレーションならば専用のものを作るでしょう。教育やコミュニケーションにしても直接会って行なう方が効率もよく信頼もできます。RLの再現をねらった真似事はできても、RLを超えるオリジナリティを出すことはできていないのです。
それはSLがコンテンツの集積ではなくて、プラットフォームであるからです。活動の土台を与えてくれているのであって、何をすべきかを教えてくれるのではないからです。つまり、SLは私たちにRLでやっているのと大して違わないことをSLの中でもやれと要求しているのです。これを無視するか、あるいはこれに応えて何かをやるか、どちらにしても私たちは最後には飽きたり疲れたりしてしまうのです。
もちろん今までにビジネスをやったことのない人がSLのなかでそのシミュレーションを行なうことによって目覚めるとか、ものづくりの面白さを知るというメリットはあります。欧米人って意外に引っ込み思案な人もいるのだと分かったりします。しかしそれは朝早く起きて毎日公園のお掃除を続けたり、ジョギングして人と出会うというのと同じ程度の効果なのです。RLでやれることの方が本物なのですね。
何か画期的なことを思いついた人がいて、それをわざわざSLに持ち込んでやってみるでしょうか?RLと比べてコストがうんと低いというのであれば意味は多少あるかもしれない。しかし、やはりRLで小規模に試して、本当にうまくいくかどうかをチェックするのが本筋でしょう。なぜなら私たちの活動の本拠はRLにあるからです。
そうして、これが何時でも問題なのですが、実際にSLを使って何かをやることでヒントを掴んで、RLのビジネスやその他の活動に反映させている人は少なからずいると思います。しかし、恩恵を受けているのはRLの方であってSLの側ではないのです。本当にうまくいったことを他人に教える人はいないのかもしれません。これが企業がSLではなくて自分達のファイアウォールの内側で様々な実験やシミュレーションを行なう理由です。
いまちょっと中断しているのかもしれませんが、ブラウザベースでSLにアクセスできることは非常に大事なことだと思います。ただそれは飽くまで導入であって、今後よほどの技術の大幅な進歩が実現しない限り、今私たちが楽しんでいることと同じことを携帯電話等の簡便な端末でも経験できるということにはならないでしょう。
ここでは繰り返しませんが、私は過去にブログで考えられるRLとSLを繋ぐビジネスのモデルに幾つか言及しました。しかし実際の経済性や需要といった面では、やってみないと分からない部分が多いものでした。リンデンは沢山の専門家やスタッフを集めて日夜考えているのでしょうから、私が思いつくことの何千倍もいろんなことを考えて、やってみているのだと思います。でも何かの鉱脈に行き当たるということはなかったようですね。
アクセスの容易さやプラットフォームのパフォーマンスが向上するというのは必要なことです。しかし、コンテンツやビジネスモデルを生み出すのはユーザーの側なので、まったくゼロから何とかしなさいというのではなくて、ヒントになるようなものを幾つか作ってみるというのもリンデンとしてやっておくべきだと思います。
自然災害やパンデミックのシミュレーションを行なうSIMとか、都市交通のシミュレーション等であれば比較的作り易いし、一般の興味を惹くのではないでしょうか?もちろんそれらはスプレッドシートが一枚あれば計算でき、わざわざSLの中でやる必然性はないと言えるのですが。ただ、私には人間を数字や色つきの点で表示するのでなく、プログラムされたBotsでやってみるのも何か生まれてきそうな気がするのです。
Posted by Sophiee Winkler at 14:31│Comments(0)
│ビジネス
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